第98話    「我流前打ち」   平成18年02月19日  

落とし込み釣りには以前から興味はあった。それは昭和50年代の中頃に北港離岸提において一時ではあったが、大フィーバーした事がある。その時に真似事をやった事以外に本格的には無かった。

夏の暑い盛りそれも日中に関東か何処かから東北を釣り歩いて来た釣師が落とし込みで大物を釣り上げて帰って行ったと云う噂が立った事がある。その釣を見ていた数人の釣り人にとっては驚異の釣であったと云う。毎年8月初旬の頃の離岸提は、極端に水が澄んでいる。暑さをしのぐ為か早朝黒鯛が、底から浮いて来ては、イガイをついばんでいるのを良く見る事が出来た。ご存知のように、見える魚は釣れないと云うセオリー通りで、その黒鯛を地元の人たちはマグレ以外はに釣った事は無かった。そんな黒鯛をイガイ、カニ餌でその釣師はやすやすと釣ってのけた。

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月の早朝に釣をしていたアジ狙いの連中は、びっくりしたのは当然である。釣れる訳が無いと思っていた見える黒鯛を、彼らは易々と釣っていたからである。それからその釣りに興味のある連中の試行錯誤が始まった。餌のイガイとカニは地元でも手に入るが、落とし込みの竿の現物は、見た事がなかった。そこで渓流竿に外ガイドを付けフライリールを付ける者、4.5mと短い外ガイド付の00号クラスの竿を使う者など様々であった。その当時すべてが手探り状態で、落とし込みの資料といえば雑誌ぐらいなものである。

基本的な釣り方も分からぬまま以前からの庄内釣りで会得した技術で釣ることにした。極端な軟らかな2間から2間半の竿に細ハリス0.4号を使うことで魚に餌を食わせる問題を解決し、持ち前の竿かざしでその細ハリスの弱点を解決したのであった。遠くで魚の居る位置を確認してそっと近づき魚から人が見えないように堤防から少し内側に位置し、細いハリスの仕掛けを落とし込んでやると云う忍者まがいの釣である。見事釣れれば、細ハリスでも熟練の釣師達は軟らかな竿を使いこなし3枚に1枚は確実に取り込みが出来た。しかしながら、その釣りは8月の初旬だけの釣の為にいつの間にか下火となって行った。落とし込みと云う釣り方が、当地では決してメジャナーな釣り方とは云えない釣であったこともひとつの要因であった。これが酒田での第一期の落とし込み釣りである。

自分も一間半の渓流竿に外ガイドを付けて改造し幾度か通って見たが、条件が合わず釣れる事はなかった。東京時代に落とし込み竿の現物は幾度となく見てはいる。が、実際に釣っているのは一度もなかった。本を見ては、やっては見たもののそう簡単に釣れる訳は無い。その当時そんな事をしなくとも、庄内フカセ釣りで夕方からの夜にかけての釣で、大型の黒鯛はいくらでも釣れた時代なので直ぐに諦める事となった。

だだ、初心者の為に現場に出掛け波の具合や天候により思うような釣は出来ない。仙台の朝寝坊氏は落とし込みでもどちらかと云うとテトラからの前打ち好きなようだ。そして餌はカニよりもイガイを付けた釣が得意のようである。オキアミ、エビ、カニや虫餌で馴れた自分はイガイでの釣りはとても苦手である。イガイで朝寝坊氏との数回の釣行で当たりを取った事は一度も無かった。

初めての釣行では、防波堤の落としこみで餌の付け方を教わり、二回目の釣行で防波堤のテトラからの基本的な釣り方を教わった。で最初の年はボーズに終わっている。二年目にしてカニ餌で30cm前後と42cmを三枚ほど釣らして貰った。釣れるには釣れた物の自分の釣り方は、フカセ風の前打ちの釣りとなっている気がしてならない。

前打ちはテトラからのフカセ釣りに似ている。異なる点と云えば垂直を探って行くか、線で探って行くかどうかだけだ。まず最初にテトラの手前側から探り、徐々に沖側を探って行く。庄内フカセ釣りではテトラにぶっつかって出来る払い出しに仕掛けを乗せて落としてやり餌を食わせると云う釣り方がある。両者の類似点は下に居る黒鯛に餌を点に見せて釣ると云う事では同じである。

日本海の落としこみ釣り、前打ちではある程度の気象条件が必要である。夏は極端に水が澄んでいる為に風波である程度濁っている様な条件が良い。実際そんな時に比較的大型が釣れている。雨が降って濁りが出ていると云う時も、最高の条件のひとつとなる。まだまだ回数をこなさなくては自分のものに出来ぬ釣りである。